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日伯社会保障協定による年金の通算と、日系家族の相続

日本とブラジルの加入期間は通算できます。ただし脱退一時金を受け取った期間は算入されません。年金と相続、日本在住のブラジル人家族に関わる二つの制度を解説します。

Bruno Machado

Bruno Machado

弁護士 · OAB/SP nº 360.883

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日本にお住まいのブラジル人のご家族には、二つの制度が同時に関わってきます。年金と相続です。どちらも二国間にまたがり、どちらも一つの誤解によって大きな損失を生みます。

年金については、脱退一時金を受け取ることの意味。相続については、日本の財産とブラジルの財産が一つの手続にまとまらないということ。本記事では、この二点を中心に説明します。

日本・ブラジル社会保障協定とは何ですか。

2010年7月29日に署名され、2012年3月1日に発効した二国間協定です(ブラジルでは2012年政令第7.702号により公布)。

中心となる仕組みが加入期間の通算です。一方の国だけでは受給資格に必要な期間に足りない場合でも、両国の期間を合算して資格の有無を判断します。対象となるのは老齢給付、障害給付、遺族給付です。

重要な点として、協定は発効前の期間にも遡って適用されます。1990年代から日本で就労されてきた方の期間も対象になるということです。

脱退一時金を受け取ると、何が起きますか。

ここが本記事で最も重要な箇所です。

協定の遡及適用には例外があります。拠出した額の払戻しをすでに受けた方については、その期間が通算から除かれます。

日本の脱退一時金(だったいいちじきん)は、短期間で帰国する外国人が納付済みの保険料の一部の払戻しを受ける制度です。目先では現金が戻ります。しかし、その払戻しを受けた瞬間に、その期間は将来の通算のために使えなくなります。

つまり選択はこうなります。いま一時金を受け取るか、それとも期間を残して将来の年金受給資格に充てるか。帰国を前にした慌ただしい時期に決めてしまいがちな判断ですが、実際には在職期間の長さ、年齢、ブラジル側の加入期間、そして今後また日本で就労する可能性によって、有利不利が変わります。

一度受け取ってしまえば、その期間は戻りません。 手続の前に検討する価値のある、数少ない不可逆の判断の一つです。

通算すると、年金はどう計算されますか。

通算は受給資格の判断に用いられるものであって、金額の計算に用いられるものではありません。

各国は自国の加入期間に応じて、それぞれ別に年金額を計算し、別に支給します。日本の期間に対応する日本の年金と、ブラジルの期間に対応するブラジルの年金という形です。同じ期間が二重に評価されることはありません。

通算の対象 支給 計算の基礎
日本 日伯双方の期間 日本年金機構 日本の加入期間
ブラジル 日伯双方の期間 INSS ブラジルの加入期間

ブラジル側の請求はどのように行いますか。

ブラジルへ帰国する必要はありません。委任状により代理人を通じて INSS に請求できます。

委任状は在外ブラジル領事館で作成するか、CPF と電子証明書をお持ちであれば e-Notariado によりビデオ通話で作成できます。詳しくは国外から委任状を作成する方法をご参照ください。

実務上の準備としては、次のものが要になります。

  • ブラジル側の CNIS(社会保障情報の記録)。加入期間と欠落の確認に用います。
  • 日本側の年金記録(年金手帳、ねんきん定期便、被保険者記録照会回答票など)。
  • CPF。これがなければ何も進みません。
  • 氏名の表記の対応関係。旅券のローマ字表記とブラジルの記録が一致しない場合、その照合が最初の障害になります。

相続:なぜ二つの手続に分かれるのですか。

年金と並んで、日系のご家族に共通して関わるのが相続です。そしてここには、ほぼ全員が最初に誤解する規律があります。

ブラジル国内の財産は、ブラジルで、専属的に処理されます。 被相続人が日本に居住していても、日本国籍であっても同じです(民事訴訟法第23条第2号)。

そして逆もまた真です。ブラジルの上級司法裁判所は、国外の財産はブラジルの遺産分割手続に含まれず、生存配偶者や遺留分権利者の相続分を算定する際にも算入されない、としています。

結果として、日本の預金・不動産は日本で、ブラジルの実家や土地はブラジルで、二つの手続が並行して進みます。一方での判断が他方の課税に影響することがあるため、両者の調整には意味があります。詳しくはブラジル所在財産の相続をご参照ください。

遺言について、押さえておくべき点

ブラジル法は自由処分主義を採っていません。遺産の2分の1は遺留分として、直系卑属・直系尊属・配偶者のために留保されています。

したがって、日本で作成した遺言によって、ブラジル所在財産について特定の子に全部を与えるといった設計はできません。ブラジル側で崩れます。日本とブラジルの双方に財産がある場合、それぞれの法制を前提に組み立てる必要があります。

具体例

日本で25年間就労されてきた方が、ブラジルへの帰国を検討しています。ブラジルでは若い頃に8年間の加入期間があります。

脱退一時金を受け取った場合:短期的な現金は得られますが、日本の当該期間は通算から外れます。ブラジル側の8年だけでは受給資格に足りない可能性が高く、結果として、どちらの国からも年金が出ない事態になりえます。

受け取らなかった場合:25年と8年を通算して受給資格を判断し、日本の年金は25年分、ブラジルの年金は8年分として、それぞれ計算・支給されます。

同じ方、同じ職歴でありながら、帰国前の一つの判断によって結果が分かれます。

次に何をすればよいですか。

順序が明確です。まだ脱退一時金を受け取っていないのであれば、受け取る前に検討してください。 これは取り消せない判断です。

そのうえで、日本側の年金記録とブラジル側の CNIS を突き合わせ、通算した場合に受給資格を満たすかどうかを確認します。この確認は請求の前に行うべきもので、記録の欠落や氏名表記の不一致は、後から直すより先に直すほうがはるかに容易です。


出典: 日本国とブラジル連邦共和国との間の社会保障に関する協定(2010年7月29日署名、2012年3月1日発効、ブラジル2012年政令第7.702号) / ブラジル民事訴訟法第23条第2号 / ブラジル民法第1.845条・第1.846条 / ブラジル社会保険庁(INSS) / 日本年金機構

よくあるご質問

日本とブラジルの年金加入期間を合算できますか。

できます。2010年7月29日に署名され、2012年3月1日に発効した日本・ブラジル社会保障協定(ブラジルでは2012年政令第7.702号)により、両国の加入期間を通算して、老齢・障害・遺族の各給付の受給資格を判断します。協定の発効前の期間も対象となります。

脱退一時金を受け取っていますが、その期間も通算できますか。

算入されません。ここが最も重要な注意点です。協定は発効前の期間にも遡って適用されますが、拠出した額の払戻しをすでに受けた方については、その期間が除かれます。脱退一時金を受け取るということは、その期間を将来の通算から手放すことを意味します。帰国の前に検討すべき点です。

通算すると、二か国から年金が出るのですか。

支給は各国が別々に行います。通算は受給資格(加入期間が足りているか)の判断に用いられ、金額は各国が自国の加入期間に応じて計算します。日本の期間で日本の年金、ブラジルの期間でブラジルの年金という形になり、二重に同じ期間が評価されるわけではありません。

ブラジルで年金を請求するのに帰国する必要がありますか。

必要ありません。請求は委任状により代理人を通じて行えます。委任状は在外ブラジル領事館、または CPF と電子証明書をお持ちであれば e-Notariado により作成できます。書類の準備と請求の窓口が分かれるため、順序を整えておくことが実務上は重要です。

日本とブラジルの両方に財産がある場合、相続はどうなりますか。

手続は二つに分かれます。ブラジル国内の財産はブラジルの専属管轄で処理され、日本の財産は日本で処理されます。ブラジルの上級司法裁判所は、国外の財産はブラジルの遺産分割手続に含まれず、相続分の計算にも算入されないとしています。事実上、二つの相続が並行して進むことになります。

日本で作成した遺言はブラジルの財産に効きますか。

ブラジル所在財産については、遺留分を覆すことはできません。ブラジル法は遺産の2分の1を直系卑属・直系尊属・配偶者のために留保しており、自由に処分できるのは残り2分の1のみです。自由処分を前提に組んだ計画は、ブラジル側で崩れます。

本記事は一般的な情報提供を目的とし、ブラジル法の概要を説明するものです。個別の事案に関する法的助言に代わるものではありません。